2024年04月20日

相続時精算課税  令和6年改正

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2024年5月号 ★

若葉が目にまぶしい季節になりました。
季節の変わり目でございますので、お身体を大切になさってください。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2024年5月の税務


5月10日
●4月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

5月15日
●特別農業所得者の承認申請

5月31日
●個人の道府県民税及び市町村民税の特別徴収税額の通知
●3月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●3月、6月、9月、12月決算法人・個人事業者の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●9月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の6月、9月、12月決算法人・個人事業者の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の2月、3月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(1月決算法人は2ヶ月分、個人事業者は3ヶ月分)<消費税・地方消費税>
●確定申告税額の延納届出に係る延納税額の納付

○自動車税(種別割)の納付(5月中において都道府県の条例で定める日)
○鉱区税の納付(5月中において都道府県の条例で定める日)


相続時精算課税贈与者が贈与した年に死亡した場合



◆相続時精算課税制度とは
 
 相続時精算課税制度は、受贈者の選択により、60歳以上の父母、祖父母などの直系尊属から18歳以上の直系卑属である推定相続人又は孫が贈与を受けたとき、課税価格から2500万円の特別控除後の残額に20%の税率を乗じた額を課税し、贈与者が死亡したときは、相続税額を計算する過程で先に課税された贈与税相当額を相続税額から控除して精算するものです。
 相続税の申告書において相続時精算課税贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算します。相続税には基礎控除(3000万円と法定相続人1人当たり600万円)があるので、贈与税額が相続税額を超えるときは、先に申告納付した贈与税の還付を受けることができます。また相続時精算課税制度は贈与者ごとに、父母の双方からそれぞれ贈与を受けることもできます。


◆贈与者が死亡した年の贈与は相続税で申告
 
 相続時精算課税の適用を初めて受ける者は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書と一緒に提出します。
 相続時精算課税の適用を初めて受ける年に贈与者が死亡したときは、相続時精算課税選択届出書を贈与を受けた年の翌年3月15日(贈与税の申告期限)又は相続開始の日の翌日から10か月を経過する日(相続税の申告期限)のいずれか早い日までに相続税の納税地の税務署長に提出します。
 このとき贈与税の申告書の提出は要さず、相続税の申告書を提出します。


◆令和6年施行の改正内容
 
 令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の相続時精算課税贈与には、110万円の基礎控除が創設されました。110万円以下の贈与の場合は、贈与税の申告は不要となりますが、相続時精算課税選択届出書の提出は必要です。
 また相続時精算課税贈与を受けた土地・建物が相続税の申告期限までの間に、令和6年1月1日以後に災害により一定の被害を受けた場合は、相続税の課税価格に加算する額の計算の際、被災価額(保険金等で補てんされた金額を差引き後)を贈与時の価額から控除できます。


◆届出書の提出もれは暦年課税で思わぬ負担
 
 相続時精算課税の適用を受けようとするとき、相続時精算課税選択届出書の提出をうっかり忘れると暦年課税が適用され、思わぬ税負担が生じますので注意しましょう。


  
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2024年04月06日

申告書の収受印

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2024年4月号 ★

春の暖かい日差しが気持ちのいい季節になりました。
いかがお過ごしでしょうか。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2024年4月の税務

4月10日
●3月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

4月15日
●給与支払報告に係る給与所得者異動届出

4月30日
●公共法人等の道府県民税及び市町村民税均等割の申告
●2月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●2月、5月、8月、11月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●8月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の5月、8月、11月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の1月、2月決算法人を除く法人の1月ごとの中間申告(12月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○軽自動車税(種別割)の納付(4月中において市町村の条例で定める日)
○固定資産税(都市計画税)の第1期分の納付(4月中において市町村の条例で定める日)
○固定資産課税台帳の縦覧期間(4月1日から20日又は最初の固定資産税の納期限のいずれか遅い日以後の日までの期間)
○固定資産課税台帳への登録価格の審査の申出(市町村が固定資産の価格を登録したことを公示した日から納税通知書の交付を受けた日後3月を経過する日までの期間等)




令和7年1月から控えは印なしに


◆申告書等の控えに収受日付印を押さない
 
 国税庁は令和6年1月4日に、令和7年1月以降は申告書等の控えに収受日付印の押捺を行わないこととする、と発表しました。対象となる「申告書等」とは、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他の書類の他、国税庁・国税局・税務署に提出される全ての文書とのことです。
 令和7年1月からの書面申告等における申告書等の送付時には、申告書等の正本(提出用)のみを提出してください、とWeb上でお願いしています。また、必要に応じて自身で控えを作成、提出年月日の記録・管理をするようにも呼びかけています。


◆申告書等の提出事実を証明する方法
 
 例えば個人が融資を受ける、奨学金の申請を行う、保育園の手続きする、等の際に確定申告書の控えを要求されることがあります。ただ、この控えについては「収受印があること」が控えたりうる要件であり、収受印がない控えについては、個人の収入等が証明できないため、各種手続きに利用できない可能性が大です。
 オンラインサービスを利用せず、紙媒体で効力のある収入証明を手に入れる場合には、税務署に対して「保有個人情報の開示請求」を行うか、「納税証明書の交付請求」を行う必要があります。
 個人情報の開示請求は手数料300円、納税証明書は税目ごと1年度1枚につき400円です。


◆オンラインなら無料
 
 e-Taxを利用した申告であれば、申告等データの送信が完了した後に、税務署からの受信通知がメッセージボックスに格納されます。ここから申告書等のPDFファイルを無料でダウンロードすることができ、こちらには受付日時等が記載されますから、旧来の控えの役割を果たすものが欲しい人はe-Taxを活用しなさいね、という風に聞こえます。
 国税庁は税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めているとしていて、その一環の措置とのことなのですが、便利な機能が増えて利便性が向上する方が多い一方、インターネット等のサービスを上手く使えない方にとっては不便になることは確かです。また、不便ならまだしも「手続き等ができない人」が出てきてしまわないか、少し心配になります。  
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Posted by taxman at 15:12Comments(0)

2024年03月25日

3月25日に思う

毎年、3月25日に思うことがあります。

「3月25日は、中央大学の卒業式だな。」

大学卒業後数年は、全力で駆け抜けたので、思わなかったのですが、
自分の税理士事務所を持つようになってからは、3月25日には思うようになりました。

毎年3月25日は、中央大学のキャンパスから卒業式がYoutubeでライブ配信されています。

全国にいらっしゃる卒業生の家族が見るのでしょう。


僕の卒業式も今日のように、小雨まじりで少し肌寒く、Junのコートを着て卒業式に出かけました。
入学式で聴いたシベリウスの『フィンランディア』を卒業式でも聴けて良かったです。
芸術が、文化が、今まで歩いてきた道が私を支えてくれました。

中央大学のユニバーシティ・メッセージは、「行動する知性」とのことです。


今日も仕事の休憩時間に少しだけ、スマホで卒業式のライブ配信を見ました。

大学の卒業式は、大事にしたしね。

3月25日は、特別な日かな。

大学時代より、卒業後の方が勉強しているでしょう。

どれだけの山を越えてきただろう。いくつの『河を渡った』だろう。

Spilitは、『世代』を超えて行く。

Soul to Soul .

今日のように、原点を確認してみるのも悪くはない。

清志郎、教授、素晴らしい楽曲を残してくれてありがとう。

  
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Posted by taxman at 15:01Comments(0)税理士日記

2024年02月23日

借地権、旅費交通費のインボイス

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2024年3月号 ★

春の陽気が待ち遠しい今日この頃、いかがお過ごしですか。

弊事務所のBGMも「春のJazz」チャンネルになりました。

外は寒いですが、事務所の中は春の気配です。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2024年3月の税務

3月11日
●2月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

3月15日
●前年分贈与税の申告(申告期間:2月1日から3月15日まで)
●前年分所得税の確定申告(申告期間:2月16日から3月15日まで)
●所得税確定損失申告書の提出
●前年分所得税の総収入金額報告書の提出
●確定申告税額の延納の届出書の提出(延納期限:5月31日)
●個人の青色申告の承認申請(1月16日以後新規業務開始の場合は、その業務開始日から2ヶ月以内)
●個人の道府県民税・市町村民税・事業税(事業所税)の申告

4月1日
●個人事業者の前年分の消費税・地方消費税の確定申告
●1月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●1月、4月、7月、10月決算法人及び個人事業者(前年12月分)の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者(前年12月分及び当年1月分)の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●7月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の4月、7月、10月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の12月、1月決算法人を除く法人の1月ごとの中間申告(11月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>


親の借地の底地部分を子供が取得したとき
 

 親が高齢になり、1人暮らしを始めると、子供としては親の介護に加え、実家の整理が気になるところです。敷地が借地である場合には、借地権の売却を考えるかもしれません。


◆単独での売却は難しい
 
 しかし、地主に借地権を買い取ってほしいと依頼すると、反対に借地人の側で土地を買い取ってもらいたいと言われてしまうかもしれません。
 そこで、借地人の子供が土地(底地)を地主から買い取り、親の借地権と一緒に売却する方法があります。もともと借地となっている土地を買ってくれる人は、通常望めません。地主も単独では底地を買ってくれる人を見つけられません。権利の制約されている土地は、そもそも取得の対象から敬遠されてしまうことでしょう。


◆贈与課税に注意!
 
 子供が土地を地主から買い取って取得した場合、それまで親は地主に地代を支払っていても、土地が子供の所有となった場合、通常、親子間で地代を授受することはなくなります。この時、親の借地権は子供に移転してしまうので、親から子供への贈与となり、贈与課税を受ける可能性が生じます。


◆税務署に申出書を提出して贈与税を回避
 
 そこで贈与課税を回避するため、子供の住所地の所轄税務署長に、引続き借地権者は親であるとして「借地権者の地位に変更のない旨の申出書」を、借地権者の親と土地の所有者である子供の連署で提出することができます。この場合、借地権は親に残り、贈与課税の問題は発生せず、将来、親の財産を相続するときに、改めて親の建物と借地権が相続財産となって相続税が課税されます。


◆不動産仲介業者に売却を依頼する方法も
 
 ところで、上記のように、子供が借地のもととなる土地を地主から取得しなくても、借地人と地主が借地権と土地を共同で売却する方法もあります。買主は所有権を取得できるので売却しやすくなります。もっとも、自分たちだけで地主と交渉し、買主を探すのは困難ですので、不動産仲介業者に依頼し、地主に共同売却を提案してもらい、不動産仲介業者の販売ルートを活用して、売却してもらうこともできます。
 ただし、買取り転売業者が買主となるときは、安く買いたたかれてしまうリスクを負いますので、業者の選定には注意が必要です。


従業員の旅費交通費精算と適格請求書(=インボイス)の保存


◆旅費交通費にかかる3つのインボイス特例
 
 適格請求書等保存方式の下では、請求書等の受領が困難な理由がある場合を除き、インボイスの保存が仕入税額控除の要件となっています。困難なものの中で、普段の経理実務で発生する旅費交通費に関するものに、下記の3つの特例があります。

(1)公共交通機関特例
 
 3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)での旅客運送では、仕入側の会社は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。適用には、帳簿に「公共交通機関特例」等との記載が必要です。

(2)入場券等回収特例
 
 3万円以上の公共交通機関利用で簡易請求書の記載事項が記載された乗車券が回収される場合は、通常の記載事項に加え、帳簿に「入場券等回収特例」等と記載のほか、公共交通機関の住所等の記載も必要です。

(3)出張旅費特例
 
 会社が従業員に出張旅費等を支給する場合には、「その旅行に通常必要であると認められる部分」の金額は、帳簿のみの保存で仕入税額控除OKです。適用するには、通常の記載事項に加え、帳簿に「出張旅費等特例」などと記載することが必要となります。


◆旅費規程に基づく立替経費精算書での精算
 
 複雑にすると混乱しますので、これまで社内で使ってきた経費精算システムを踏襲し、新たに必要となった事項のみ追加する方が良いでしょう。仕入れの相手先名の横にインボイス番号を記載する欄を設け、近郊の公共交通機関利用の場合はそこに「公共交通機関特例」と記載するなどです。
 課税仕入れの相手方を従業員とし、従業員が個人で取得した適格請求書まで辿れるようにしておけば、旅費交通費精算のインボイス保存の問題に対処できます。各社で処理フローを想定し、従業員に周知して、早いうちに慣れてもらいましょう。


◆会計システムのエラーメッセージへの対応
 
 会計ソフトのインボイス制度への対応で、「課税仕入れとしていますが登録事業者ではありません」や「取引金額が1万円未満のため全額仕入控除できます(少額特例対象会社)」などのエラーメッセージでその都度作業が止まってしまうことがあります。それでなくともインボイス番号の確認作業で経理担当の作業量は大幅に増えています。
 各社で環境は違いますが、自社のエラーメッセージ対応策を見つけ、無駄な時間をできるだけ回避するようにしましょう。  
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2024年02月05日

中小企業のM&Aと労務DD

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2024年2月号 ★


立春とは名ばかりの厳しい寒さが続いております。
いかがお過ごしでしょうか。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2024年2月の税務

2月13日
●1月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

2月29日
●12月決算法人及び決算期の定めのない人格なき社団等の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●3月、6月、9月、12月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●6月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の3月、6月、9月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の11月、12月決算法人を除く法人の1月ごとの中間申告(10月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○前年分贈与税の申告(申告期間:2月1日から3月15日まで)
○前年分所得税の確定申告(申告期間:2月16日から3月15日まで)
○固定資産税(都市計画税)の第4期分の納付(2月中において市町村の条例で定める日)


中小企業等のM&Aと労務DD


◆中小企業等を取り巻く喫緊の課題
 
 中小企業庁の調べでは、2025年までに70歳を超える中小企業及び小規模事業者(以下「中小企業等」)の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万社が後継者未定となっています。この127万社という数字は、日本全体の企業数の1/3に当たります。
 これをそのまま放置すると、中小企業等の廃業の急増により、2025年までの累計で、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとしています。これらの課題解決の一つとして、第三者への事業承継(本稿では「M&A」とします)のニーズが高まりつつあります。


◆デューデリジェンスとは
 
 デューデリジェンス(Due Diligence)とは、Due(当然・正当)Diligence(精励・努力)という意味で、投資を行うに当たり、投資先企業の価値やリスクなどを事前に調査することを言います。
 M&Aにおけるデューデリジェンス(以下「DD」)の目的は、買収企業の経営環境、事業内容などを調査し、財務状況・収益力について分析を行い、法務面の問題点・リスクを洗い出して、より正確に企業実態や事業運営の手法を把握することです。その種類には財務DD、法務DDなどがあり、労務DDも重要な位置を占めます。


◆労務DDの定義とその内容
 
 労務DDについては、法律等での明確な定義はありませんが、一般的に「労働に由来する潜在債務を調査すること」となります。
 ここでの潜在債務とは、簿外債務と偶発債務を合わせた概念になります。簿外債務とは、本来、費用として財務諸表に計上されなければならない債務を言い、未払残業代や加入漏れの社会保険料などが挙げられます。偶発債務とは、将来、想定外の出来事で発生し得る債務を言い、解雇の無効や管理監督者と認められないなどによるバックペイ(遡っての給与等の支払い)、労働災害やハラスメント問題による会社の損害賠償リスクなどがこれに当たります。
 近年、第三者への事業承継(M&A)をスムーズに遂行するため、また、売り先企業が自社をより高額で売却するため、さらには人的資本経営の高まりからも、事前に潜在化しているリスク対応としての労務DDが注目されています。


お葬式と税金


◆故人をしのぶ儀式と税金
 
 お葬式は亡くなった方へのお別れやお見送りの儀式です。お通夜や告別式の流れ、宗教宗派によって変わる作法、ご挨拶の言葉など、日常生活とは異なるマナーが多く、少々苦手という方も多いのではないでしょうか。また、残されたご遺族には相続税等、税金周りの手続きが必要になる場合もあります。お葬式と税の関係を確認してみましょう。


◆相続税を計算するとき
 
 相続税を計算するときは、負担した葬式費用を遺産総額から差し引けます。例えば、

(1)お葬式や葬送に際し、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用
(2)ご遺体やご遺骨の回送にかかった費用
(3)お葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えばお通夜などにかかった費用など)
(4)お葬式にあたりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
(5)遭難事故等の場合のご遺体の捜索または運搬費用
 
 上記は相続税を計算するときに差し引けるものとなります。逆に、
(1)香典返しの費用
(2)墓石や墓地の費用
(3)初七日や法事の費用
については、葬式費用ではないと判定されるため、遺産総額から差し引くことはできません。


◆香典・弔慰金と税金
 
 香典については故人ではなく喪主やご遺族に支払われるものという扱いになっています。前述した葬儀費用とはならない「香典返し」は故人が返しているわけでもないし、故人が貰っているわけでもないので、葬儀費用とはならない、という解釈です。また、社会通念上相当と認められる香典については所得税及び贈与税は非課税となっています。
 会社から出る弔慰金については、実質上退職手当金等に該当する部分については相続税の対象です。また、それ以外の部分については明確な取り決めがあり、

(1)業務上の死亡の場合:給与3年分

(2)業務上の死亡でない場合:給与半年分

を超える弔慰金については、相続税の対象となります。  
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2024年01月16日

消費税2割特例、会社役員の社会保険

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2024年1月号 ★

新たな年を迎え、皆様にとってご多幸がありますようお祈りいたしております。
本年も希望にあふれる一年になるといいですね。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2024年1月の税務

1月10日
●前年12月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付(年2回納付の特例適用者は前年7月から12月までの徴収分を1月22日までに納付)

1月31日
●支払調書の提出
●源泉徴収票の交付
●固定資産税の償却資産に関する申告
●11月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●2月、5月、8月、11月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●5月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の2月、5月、8月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の10月、11月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(9月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>
●給与支払報告書の提出

○給与所得者の扶養控除等申告書の提出(本年最初の給与支払日の前日)
○個人の道府県民税及び市町村民税の納付(第4期分)(1月中において市町村の条例で定める日)


2割特例の適用に「不適用届出書」提出が必要な場合がある


◆令和5年10月31日付国税庁の周知依頼
 
 インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった事業者には「2割特例」という3年間の納税の経過措置が設けられています。
 これに関して、国税庁から、「インボイス発行事業者の登録申請書のほか、インボイス制度開始の日(令和5年10月1日)を含む課税期間に係る『消費税課税事業者選択届出書』を提出している場合には、課税時間の末日までに『課税事業者選択不適用届出書』を提出しないと2割特例が適用されなくなるから要注意!!」ということを周知してもらうよう日本税理士会連合会宛に依頼がありました。


◆何らかの理由で選択していたら再度検討を
 
 インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になる場合には、インボイス発行事業者の登録申請書を提出すれば、インボイス制度開始の日(令和5年10月1日)からインボイス発行事業者となり、同日から課税事業者となっています。同日からの適用であれば、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要でした。
 しかしながら、何らかの理由(=たとえば、令和5年10月1日より前に設備投資等がありその消費税還付目的があったなど)で、「消費税課税事業者選択届出書」を提出していた場合には、国税庁からの周知にある追加手続きをすべきか否か、再度、納税額のシミュレーションをし直して、対応を確認する必要があります。
 予定通り設備投資等がなされていれば当初の選択通りでよいかもしれませんが、経済事情の悪化等で設備投資が先延ばしされていた場合などには、見積納税額の計算のし直しが必要となるでしょう。


◆ギリギリまで検討できるが早めに対応を
 
 通常、消費税の課税選択等の適用申請は、適用を希望する「課税期間の初日の前日までに」とされています。
 しかしながら、経過措置関連では、「課税期間の末日までに」という措置が取られており、今回の「2割特例適用のための『課税事業者選択不適用届出書』の提出も課税期間の末日までに」とされています。
 どちらが得なのか、損をしないのかのシミュレーションをする時間は課税時間の末日までありますが、通信環境システムの不具合などで遅れることのないように、早めに対応した方が良いでしょう。


会社役員の社会保険加入は義務?


◆社会保険適用範囲の拡大で加入該当者増
 
 企業や一定の団体などで働く人は原則社会保険に加入します。パートやアルバイト等で勤務の時間や日数が少なく加入しない場合もありますが、最近は適用範囲が広がり加入該当者は増えています。
 社会保険は生活や仕事で起こる様々なリスクに備えるための制度です。病気やケガ、介護、失業、高齢になった時の生活保障等の事象が起こった時に給付を行い、生活を支えます。健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険があります。一方雇用されていない役員はどのような加入条件なのかをみてみたいと思います。


◆社会保険加入の条件は
 
 まず社会保険の加入の条件を確認します。法人は基本的に社会保険に加入する必要があります。会社を設立した時は「適用事業所」となります。ただし、以下の時は適用事業所にはなりません。

・従業員が5人未満の個人事業所、理美容業、飲食業など

・農林漁業の個人事業所
 
 続いてそこに働く人が社会保険の加入条件を満たしているかどうかです。対象となる人は会社の代表者、会社の役員(一定の条件有)、正社員、パートやアルバイトで会社の1週間の所定労働時間の4分の3以上の労働時間、労働日数で働く人です。
 ただし、4分の3未満でも従業員101人以上の企業(2024年10月から51人以上)で働く人で週の所定労働時間が20時間以上、勤務期間が2か月以上の見込み、月額賃金8万8千円以上で学生以外の人は対象となります。


◆会社役員の社保加入の判断は?

・役員報酬がない場合、加入義務はない

・役員報酬が払われていれば加入対象
 ただし、非常勤の役員に加入義務はない

・定期的に出勤するなど、常勤の役員か

・役員会等への参加、経営に参画している

・仕事内容に見合った役員報酬

・他の会社との兼務はあるか等
 
 また、会社役員は基本的に労災保険・雇用保険の対象外ですが労災保険は特別加入制度があります。また、兼務役員などで一部は労働者の業務を行っているときは労災保険や雇用保険も対象にされる場合があります。「兼務役員雇用実態証明書」を所轄のハローワークに提出しておきましょう。

  
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2023年12月12日

タワーマンション事件、独占禁止法・下請法

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2023年12月号 ★


クリスマスを控えて、街も活気づいております。
年末に向けご多忙のことと存じますが、健康にお気をつけて
お過ごしください。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2023年12月の税務


12月11日
●11月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額・納期の特例を受けている者の住民税の特別徴収税額(当年6月〜11月分)の納付

翌年1月4日
●10月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●1月、4月、7月、10月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●4月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の1月、4月、7月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の9月、10月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(8月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○給与所得者の保険料控除申告書・配偶者控除等申告書・住宅借入金等特別控除申告書の提出(本年最後の給与の支払を受ける日の前日)
○給与所得の年末調整(本年最後の給与の支払をするとき)
○固定資産税(都市計画税)の第3期分の納付(12月中において市町村の条例で定める日)



相続対策と課税の公平
 
 
 タワーマンション事件では、被相続人が事業承継の目的で取得したマンションの相続税評価は、財産評価基本通達(評価通達)によるのではなく、総則6項を適用した鑑定評価額によるとして追徴課税されました。
 相続人は相続税評価額をマンション取得のための借入金と相殺し、相続税額をゼロと申告しましたが、銀行に残された資料等から一連の取引が租税負担の軽減を意図したものであると認定されました。


◆相続対策に対する課税
 
 相続対策は、生前に財産を組替え、移転させることにより、課税価格を少なくして相続時の税負担を圧縮させるものですが、これらは法令に従う限り、本来、適法であり、実際、申告には路線価等に基づく評価が求められます。
 一方で、評価通達には、総則6項が別に定められており、通達による評価が著しく不適当と認められるときは、評価通達ではなく、国税庁長官の指示を受けて評価すると規定されていますが、その場合は納税者の意に反して課税されることになります。総則6項の「著しく不適当」がどの程度を指すのか明確に規定されていませんが、最高裁は実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があると認められるので、評価通達によらなくても平等原則に反しないと判示しました。


◆租税法律主義との相克
 
 評価通達によらずに課税庁が評価するとなると、そこには課税庁の恣意性が働き、納税者にとっては自分の申告が適法か予測できず、いつ否認されるかわからない不安定なものとなってしまいます。
 総則6項を適用するのは、行き過ぎた税負担の圧縮が行われたときとされますが、その判断を納税者に求めるのは無理があり、課税庁が財産評価を決め、変更することを自由にできるのであれば、申告納税制度の根幹が損なわれてしまいます。


◆租税公平主義を意識した相続対策
 
 国税庁はパブリックコメントでマンションなど居住用の区分所有財産の評価について、市場価格と相続税評価額との乖離を埋める基準を公表しましたが、相続対策に対する判断基準を示しているわけではありません。課税庁には恣意的な課税をさせないため、適正な課税ルールを法律で定めることを求めつつ、納税者には今後も租税公平主義を意識した相続対策が求められそうです。


賃上げ実現と取引の適正化


◆価格転嫁が困難な理由
 
 中小企業が取引先に対して、労務費や原材料費、エネルギーコスト等の上昇分を適切に転嫁できないという問題が生じています。適切な価格転嫁ができない理由には様々なものがあるでしょうが、一つには中小企業と取引先との関係性(力関係)に起因していることが挙げられます。
 ある中小企業において、その取引先との取引継続が困難になると、自社の経営に大きな影響を及ぼすことになると考えた場合、取引先からコストの上昇分を価格に反映せず、従前の取引価格に据え置くことを求められたとしても、今後の取引継続を第一に考えて、これを受け入れざるを得ないということもあります。又は、中小企業自身から今後の取引継続を求めるため、コスト上昇分の価格転嫁を控え、従前の取引価格を取引先に提案することもあり得ます。
 いずれの場合でも、これを放置すれば価格転嫁ができないことによる原資の不足から、中小企業における賃上げの実現も困難になります。


◆取引適正化についての政府の考え
 
 このように中小企業が、取引先に対して適正な価格転嫁ができない要因を法律的な側面から見た場合には、独占禁止法(以下「独禁法」)や下請法の問題と捉えることができます。政府は、中小企業が取引先に対して、適切な価格転嫁を行い、賃上げの原資を確保することができるように、独禁法や下請法の執行を強化しています。
 また、政府は「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を策定して、政府全体で転嫁対策に取り組んでいくことを公表しています。具体的な例として政府は、価格転嫁対策について独禁法と下請法の執行強化のほか、労働基準監督機関(都道府県労働局及び労働基準監督署)における対応として、最低賃金や賃金・残業代の不払いが疑われる事業場に対して、上記機関が監督指導を実施して是正を図るとしています。これは、適正な価格転嫁ができないことの皺寄せが、末端の労働者に及ぶのを防ぐことを目的としていると思われます。なお、これらの施策では、中小企業にも政府の取組みなどを理解しつつ、適正な価格転嫁の実現、ひいては賃上げの実現に向けた努力が求められます。  
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2023年11月10日

相続税の障害者控除、相続人が外国居住者の場合

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2023年11月号 ★

秋も一段と深まり、日だまりの恋しい季節となりました。
皆様お変わりなくお過ごしですか。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2023年11月の税務

11月10日
●10月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

11月15日
●所得税の予定納税額の減額申請

11月30日
●所得税の予定納税額の納付(第2期分)
●特別農業所得者の所得税の予定納税額の納付
●9月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●3月、6月、9月、12月決算法人・個人事業者の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●3月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の3月、6月、12月決算法人・個人事業者の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の8月、9月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(7月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○個人事業税の納付(第2期分)(11月中において都道府県の条例で定める日)


相続税の障害者控除


◆制度の概要
 
 障害者が相続や遺贈で財産を取得したときは、将来にわたる生活費や介護費用等に備えるため、相続税額から一定金額を控除すること(納付税額の減額)ができます。
 障害者控除額は、85歳になるまで1年につき10万円(一般障害者)または20万円(特別障害者)で算出されます。例えば、40歳で父の財産を相続した子が一般障害者の場合、10万円×(85歳-40歳)=450万円の控除を受けることができます。


◆扶養義務者からも控除できる
 
 障害者控除額を障害者本人の相続税額から控除しきれない場合は、その金額をその障害者の扶養義務者の相続税額から控除できます。扶養義務者は、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、三親等内の同一生計親族等です。先の例で子の相続税額が300万円の場合、控除しきれない150万円は扶養義務者となる母や兄弟姉妹の相続税額から控除します。


◆既に控除の適用を受けていた場合等
 
 既に障害者控除を受けたことがあり、今回、新たな相続で再び、障害者控除を受ける場合は、障害者及びその扶養義務者が既に控除を受けた金額の合計額を除いた額を控除できます。
 前の相続で一般障害者であった相続人が今回の相続では特別障害者になった場合(あるいは、その逆の場合)は、最初の相続開始時の障害者区分に対応する障害者控除額と、今回の相続開始時の障害者区分に対応する障害者控除額との合計額から、障害者及びその扶養義務者が既に控除を受けた金額の合計額を除いた額を控除できます。


◆障害者控除の利用履歴を確認するには
 
 障害者控除の適用を受ける場合、障害者やその扶養義務者が前の相続で障害者控除を受けていたかについて履歴の確認を要します。前の相続で申告書がある場合は、その申告書の控えを閲覧します。相続財産の評価額が基礎控除額以下であれば相続税は生じていないので、今回の相続で初めての控除を受けることができます。
 また、障害の程度の履歴は、障害者手帳に記載がないため、都道府県の窓口に個人情報の開示請求が必要になります。なお、障害者に係る個人情報は、要配慮個人情報として不当な差別などの不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮が求められます。原則は本人からの請求で履歴情報を取得しますが、障害者の代理人が取得する場合には、細心の注意を払いましょう。


相続人が外国居住者の場合の相続税の課税対象と必要書類


◆相続発生時に外国居住だったらどうなる?
 
 外務省の海外在留邦人総数推計では、海外在留邦人数は130万8,515人とされています。日本から外国子会社等への駐在勤務の期間中に親の相続が発生することも十分考えられます。外国居住者でも日本の相続税の納税義務はあるのでしょうか?
 日本の相続税法の規定では、相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になるとされています。ただし、財産を取得したときに日本国籍を有している人で、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合などでは、日本国外にある財産についても相続税の対象になります。
 つまり、平均年数3〜5年とされている企業からの海外駐在の場合では、大概の場合、全世界財産が課税対象となります。一方で、その国に居ついてしまって10年超の場合には、日本の財産だけが対象です。
 なお、外国居住者の場合、その居住地国での相続税法の課税の有無もよく確認して対処しなければなりません。要注意です。


◆国外転出届で住民票も印鑑証明もなくなる
 
 転出届で国内に住所がなくなると日本では住民票も印鑑証明書も発行されなくなります。遺産分割協議書には、相続人全員の署名および実印での押印と印鑑証明書の添付が必要です。また、相続財産の中に不動産がある場合には、法務局で相続登記を行いますが、登記申請に住民票が必要です。
 外国居住者が相続人となった場合、この2つの書類を用意できませんが、どうすればよいのでしょうか?


◆サイン証明書と在留証明書を入手する
 
 外国居住者の場合、印鑑証明書と住民票に代わるものとして、居住地国の日本領事館等で、別の必要書類を入手します。実印と印鑑証明の代わりとしてサイン(署名)証明書が、住所を証明する書類として在留証明書が、その書類となります。
 普通は、訃報を聞いて慌てて飛んでくるので、在留証明書もサイン証明書も居住国に戻ってからの入手となります。相続自体が不慣れな上に、外国在住で通常とは違う手続きです。何度も同じ手続きをしないで済むよう手順をよく確認して進めて下さい。  
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2023年10月06日

NISA、2024年問題

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2023年10月号 ★


秋の気配も次第に濃くなり、穏やかな季節になってきました。
いかがお過ごしでしょうか。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2023年10月の税務

10月10日
●9月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

10月16日
●特別農業所得者への予定納税基準額等の通知

10月31日
●8月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●2月、5月、8月、11月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●2月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の2月、5月、11月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の7月、8月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(6月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>

○個人の道府県民税及び市町村民税の納付(第3期分)(10月中において市町村の条例で定める日)


NISAへの誘いと現NISA


◆老後への早期の準備を
 
 老後の生活を豊かにするには、健康、生きがい、まとまった資金が必要です。健康と生きがいは、運動や食事や趣味や人間関係などへとテーマが拡がっていきますが、老後生活資金については、年金の外は若い時からの資産形成に拠らざるを得ません。
 総務省の家計調査報告では、65歳以上の夫婦世帯・単身世帯の平均値として、消費支出に対し16.8%の収入不足となっている、と報告されています。この不足を補うに足る余裕資金の確保が不可欠です。
 政府は預金だけではない資産形成として、投資をすることを勧めています。株式などの投資で出た利益を非課税とするNISAやiDeCoが代表例です。確かに、預金で持つよりも資産を増やせるのが投資の魅力です。預金と異なり元本が減る可能性はありますが、長い期間でやり方を工夫すれば大きな損失を出す可能性は減らせます。


◆NISAで1800万円の資産形成を
 
 NISAとは、個人の投資による株式・投資信託等の配当・譲渡益等を非課税とする税制優遇制度で、今年の税制改正で大改造されました。
 令和6年1月1日からの新NISAは、非課税期間が無期限となり、年120万円限度の安全性重視型の「つみたて投資枠」と、年240万円限度の自己責任型の「成長投資枠」とになります。両枠併用は可です。
 なお、無期限化に伴い、非課税保有限度額が、両投資枠全体で1800万円(成長投資枠のみでは1200万円)の制限が設けられました。最低このくらいの老後資金を長期的に蓄積しておきなさい、という政府メッセージのように見えます。


◆旧NISAと新NISAの併用
 
 令和5年末までの現行NISAは新NISAとは別建てなので、令和5年12月31日までで打止めとなり、以後は5年、20年の非課税期間満了経過とともに旧NISAは消滅となり、順次課税口座にその時の時価額で移管されることになります。
 しかし、新NISAが出来たからと言って、旧NISAに不都合があったわけではありません。2023年中に旧NISAをはじめれば、生涯非課税で運用できる金額が増えることになります。少しでも早く積立投資を始め、少しでも多くの非課税枠を確保することの意味では、新NISAを待たずに現NISAに挑戦すべきです。


トラック運転者の改善基準告示とは


◆迫りくる令和6年4月施行の改善基準
 
 トラックなどの運輸業界では「2024年問題」と言われているのが「改善基準告示」です。改善基準告示とは、「自動車運転者等の改善のための基準」のことを言い、自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることからトラック、バス、ハイヤー、タクシー等の自動者運転者について基準などが設けられています。
 広い意味でトラック運転者とは運送会社で働くトラックの運転者に限らず旅客事業者運送事業(ハイヤー・タクシー・バス等)及び貨物事業者運送事業以外の事業に従事する自動車運転者を含みます。
 令和4年12月に自動車運転者の健康確保等の見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間等が改定され、令和6年4月に施行されます。
 自動車運転者の時間外労働の上限は、令和6年4月から原則月45時間、年360時間、臨時特別な事情がある場合でも年960時間となります。


◆トラックの「改善基準告示」見直しポイント
 
 改善基準はトラックやタクシー、バスで共通事項もありますが時間の制限の多少の違いがあります。ここではトラックの改善基準を見てみます。

(1)1年の拘束時間 現行3516時間⇒3300時間 最大3400時間

(2)1か月の拘束時間 現行原則293時間最大320時間⇒原則284時間、最大310時間

(3)1日の休憩時間 現行継続8時間⇒継続11時間を基本とし、9時間下限


◆労働時間のとらえ方、考え方
 
 拘束時間とは使用者に拘束されている時間で、労働時間+休憩時間 例えば会社に出社し始業から仕事し、仕事を終えて終業するまでを言います。
 また、作業時間とは運転や車両の整備、荷扱いをする時間を言い、手待ち時間とはバスやタクシー運転手における客待ち、トラック運転手における荷待ちの時間を言います。そして休息時間とは勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠時間を含む生活時間として労働者にとって全く自由な時間を言います。
 トラック運転手の労働時間短縮に取り組むことは人材不足の中、さらなる経営努力が求められています。

  
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Posted by taxman at 09:12Comments(0)

2023年08月23日

海外在住で日本企業にリモート勤務の所得税と社会保険、駐車場賃貸のインボイス

★ 川口明彦税理士事務所 事務所だより 2023年9月号 ★

暦では夏の終わりと申しながら、まだまだ暑い日がつづきますね。
夏の疲れが出てくる頃です。
体調管理には充分気をつけてお過ごしください。

それでは、今月の事務所だよりをお届けします。


2023年9月の税務

9月11日
●8月分源泉所得税・住民税の特別徴収税額の納付

10月2日
●7月決算法人の確定申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・(法人事業所税)・法人住民税>
●1月、4月、7月、10月決算法人の3月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●法人・個人事業者の1月ごとの期間短縮に係る確定申告<消費税・地方消費税>
●1月決算法人の中間申告<法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税>(半期分)
●消費税の年税額が400万円超の1月、4月、10月決算法人の3月ごとの中間申告<消費税・地方消費税>
●消費税の年税額が4,800万円超の6月、7月決算法人を除く法人・個人事業者の1月ごとの中間申告(5月決算法人は2ヶ月分)<消費税・地方消費税>


海外在住で日本企業にリモート勤務の所得税と社会保険


◆リモートワークが進むと海外在住もOK!
 
 リモートワークでの勤務が普及し、業種によってはフルリモートで居住地が会社の近くでなくとも問題ないというところも増えています。極端な話、海外在住者と雇用関係を結び国外に在住のまま働いてもらうこともできます。日本国内の採用市場ではこれまで絶対数が少なく人材難だった、英語ができるITエンジニアなどは、海外から人材を採用する方針も選択肢の一つとなっています。


◆海外からリモート勤務者の所得税の課税
 
 話を単純化するため、前提として、リモートで日本勤務するITエンジニアは、これまで日本に住所も居所も持ったことがない日本の所得税法上の非居住者でかつ役員とはならない労働者とします。そして、勤務者は日本の会社への出社(=日本に来ること)は一切不要とし、給料は日本から海外の本人の銀行口座に直接支払われるものとします。さらに、勤務者の居住地国と日本との間には租税条約があり、給与所得者は居住地国でのみ課税されるものとします。
 給与は日本から国外の本人口座に送金されますが、日本で勤務を行わないため国内源泉所得とはならず、給与の支払いの際の日本の所得税の源泉徴収は不要です。年末調整も対象外です。日本では課税されないため日本での確定申告も不要です。
 課税関係の精算は勤務者本人の居住地国で確定申告をすることになります。


◆海外リモート勤務者の社会保険等の扱い
 
 海外の人を海外在住のまま日本の企業が雇用することはまだ法整備がなく、今後変わる可能性はありますが、いまのところ、給与が日本の企業から支払われていれば、社会保険は適用されるものと考えられています。ただし、介護保険には日本での居住要件があるので加入できません。
 労働保険は、労働災害保険のみ特別加入制度(海外派遣者)が適用できれば対象となれます。雇用保険は、海外在住の場合、現地採用と同じ扱いとなり雇用保険には加入できません。
 今後、海外リモート勤務をする実例が増えてくると、法整備も後追いで対応されてくるものと思われます。適用の際は、専門家および年金事務所に相談の上、実態とその時点での法解釈に従った手続きが必要となります。


駐車場賃貸のインボイス
 

 駐車場の賃貸借契約は、通常、1年〜2年間の契約期間で作成されますが、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の運用が始まる令和5年10月1日をまたぐ契約も多いのではないでしょうか。


◆駐車場賃貸は、消費税課税が原則
 
 駐車場事業を経営する場合、砂利を敷く、ロープで区画割りする、アスファルト舗装するなど施設を整備して貸し付けます。施設の利用に伴って土地が使用される場合、消費税が課されます。課税事業者は、令和5年10月以降、賃貸借契約書や請求書、領収書等にインボイス(適格請求書)としての要件を備えさせて保存しなければなりません。


◆契約書を通知書で補完
 
 契約書、請求書等をそのままインボイスとする場合、登録番号、税率10%に対応する税込価額または税抜価額、消費税額等の明記が必要ですが、令和5年10月前に作成する契約書には、これらの項目の記載は求められていません。そもそも、駐車場賃貸では、賃料の収受に際し、通常は請求書や領収証を交付しないでしょう。
 そこで貸主のインボイス交付義務・保存義務(借主のインボイス保存義務)に対応させるため、請求書にかえて、駐車場事業者は、インボイス番号(登録番号)等を記載した通知書を別途作成して契約書を補完させて借主に交付すること、領収証にかえて、借主は銀行の支払記録と賃貸借契約書や通知書で補完する方法が国税庁のインボイス特設サイトに案内されています。


◆口座振替と口座振込
 
 口座振替の場合、借主は、インボイス番号の通知書で補完された契約書とともに通帳(課税資産の譲渡等の日付が分かるもの)を併せて保存することにより、インボイス保存義務が満たされます。
 口座振込の場合は、借主は、インボイス番号の通知書で補完された契約書とともに銀行の発行する振込金受取書を併せて保存することにより、インボイス保存義務が満たされます。


◆事務所賃貸、税理士、社労士も取扱いは同じ
 
 なお、仲介会社の作成する令和5年10月以降の賃貸借契約にインボイス番号等の記載がない場合も上記の通知書で補完する対応が必要になります。また、この取扱いは、事務所賃貸はもちろん、税理士、社労士など士業が顧問先と締結する契約についても同様の対応となります。インボイス制度開始前に業務フローを確認しておきましょう。


  
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